藪の中で迷子

綺麗な川と滝を目指して、ローカル線に乗って行く。窓の外を眺めていると、不思議な名前の駅があったり、ホーム一面に猫じゃらしが生えていたりするのが目に入る。なぜホーム一面に猫じゃらしが生えるんだろう。

 

駅に到着して、まず荷物預かりのサービスをやっているか駅員さんに確認した。すると、サービスはおろか、この窓口自体が昼で閉まってしまうことが発覚。帰り切符も買えないじゃない。駅周辺にも、観光客向けの店はない。仕方がないので、2泊分の荷物は抱えたまま歩いていく。

駅に着いてからも、本当に滝を見に行くか迷っていた。滝を見に行くなら山を登るバスに乗らねばならず、バスの時間と一時間に一本しか来ない電車の時間が微妙に合わないので、何もやることがない時間ができてしまうのだ。でもせっかくだし、ということで、バス停に向かう。

 

それが、滝を見に行くか思案していたものだから、マップを全然見ずに間違った方向に歩いてきてしまった。気づいたときにはもう引き返してもしょうがないところにいたので、草木生い茂る道、地元民しか使わないであろう道を歩いて行った。

藪か家屋か畑しかない小路を歩いていると、急にいい匂いがしてきた。こんなところでアロマ炊いてるのは誰だと思って道を行くと、林業の敷地に木材が積まれているところに出た。丸太のオレンジ色の断面が、すてきな香りを放っている。

そのまま進んで行くと林業の工場が道沿いに立っていた。つまり、バス停の方面に行くにはこの工場の敷地を突っ切らなければならない。平日なので、地元の方々がここで普通に働いている。トラクターに乗ったおじさんがこちらを見ている。こんなところを通るのは不本意なんです、とんでもない方向音痴なんです、と言い訳をしたい気持ちでいっぱいになりながら、そこの作業員さんと目が合わないように帽子の庇を下げた。