英国ドラマ、Cranford

Cranford(クランフォード)を観た。

BBSのドラマで、全5話。

 

邦題が「女だらけの街」であるこの作品を、私は既に小説で読んで知っていた。
ストーリーはシンプルだが、当時の風俗や、上流階級ほど裕福ではないながらも品を重んじる女たちのプライドや情深さがとても面白かったのを覚えている。

クラシックからモダンまでアレコレとイギリス小説や映画に手を出してきた私の中で、なぜだか「特にお気に入り」のコーナーに鎮座しているのがこの作品。
「イギリス文学といえば」なジェーン・オースティンの「高慢と偏見」も好きだが、小説を読んだ時の感動はそれほどでもなく、映画版で主演を務めるキーラ・ナイトレイによって私の中における本作の魅力がぐぐっと底上げされたという歴史がある。また、シェイクスピアの有名な作品は大体さらったが、演劇特有の(シェイクスピア特有の?)華やかな(大袈裟な)言い回しをいくつか覚えているだけで、ストーリーや登場人物の記憶は薄め。シェイクスピアは読むのではなく観るほうが魅力が伝わりやすかったりするのかもしれないから、また時間ができたときに観てみようと思っている。

じゃあなぜクランフォードはお気に入りなのか。
それは私がイギリス好きなだけでなく、無類の田舎町好きでもあるから。

好きが高じて、数年前のイギリス行旅程の大半を牧羊地帯に充てた。
イギリスなんて遠いし物価は高いし海外旅行なんてそう頻繁に行くものじゃないので、初英国旅行では有名どころを一通り周っとこうかという考えも頭にはあったのだが、やっぱり田舎町を見に行くことにした。どうしてもこの体を憧れの地に持っていきたかった。

ロンドンなどの都会かつ有名観光地で過ごす日を削ることにはなったが、我ながら素晴らしい選択だったと確信しているので、Cranfordから話は逸れてしまうがここに私が見たイギリスの風景を載せておく。

この旅行で買った、現代イギリスに生きる高学歴羊飼いのエッセイも私のお気に入りの一冊になっている。
"The Shepherd's Life"というタイトルのこの作品は、著者であるJames Rebanksがイギリスの羊飼いの家に生まれ、情熱と思考をかけて羊を育てる生活が描かれている。イギリスの、特に著者が暮らす地域の文化に羊がどれだけ重要であるかが、そして羊と共にする生活にリズムを与える美しい季節と厳しい冬の様子がありありと伝わってくる本。私の感性が好奇心に押されて突き出している方面へずっと行った先にこの本の中の人生が広がっていると感じるくらい、私の好みにぴったりの本だった。

 

イギリス旅のお話は尽きないので、また今度じっくり書くことにする。

 

話をCranfordへ戻すと、このドラマは「本を読んで思い浮かべていた古き良き時代のイギリスの姿だ…!」と思わず感嘆を漏らしてしまうほど画が美しい。

毎話、イギリスの牧歌的な背景に、伝統的な衣装を身にまとった人が佇む姿を写した絵画のようなカットが数秒流れる。その度に「眼福…」と心の中で手を合わせ拝んだ。イギリスの映像作品は画に凝っているものが多くて眼に嬉しい。

豊かな自然の中に佇む石造りの家々と色鮮やかな花が咲くお庭がある町並みや、そこを行きかうドレスとフリルたっぷりの帽子で身を飾った人々の姿は、眺めているだけで癒される。ドレスとはいっても、マリーアントワネットやアンナ・カレーニナに出てくるようなような宮廷ドレスではなく、あくまでも田舎のレディーたちが着るものなので、色彩もデザインも素材も派手ではない。でも首元を飾るレース、チェックや花柄の生地、肩や腰がふんわりしたクラシックなデザインだったりが、2023年の私の好みにドストライク。19世紀ブリティッシュレディーたちのファッションもドラマCranfordの見どころだ。

 

そして、この作品がコメディータッチであることも観ていて楽しい理由の一つ。
完全なコメディーではないし、登場人物は皆真面目で、おちゃらけているキャラクターはいない。しかし彼女たちは真面目が故にちょっと滑稽なところがあったり独自のプライドを拗らせている者もありながら、根底には情深さがあるから愛らしい。皆イギリスの名優たちが演じているから(ハリーポッターに出てくるピンクのおばさんも出演されている)、キャラクターのチャーミングさがより際立って見えて面白い。

あと、これは個人的な事情だが、メインキャラクターであるマチルダおばさん(女優さんの名前はJudi Dench)が私の祖母に似ているのもこの作品に愛着をもつ要因になっている。にっこりと笑った顔なんかそっくり。顔のパーツも似ているのだが、一番似ているのは表情の作り方かもしれない。また、ご近所さんや来客者への気遣いが過剰なほどあって、噂好きで、おおらかで…といった性格面も近いところがある。 私の祖母は関西のマチルダおばさんだ。

 

森や田舎町を切り開いて行われた鉄道事業など、当時の社会問題も盛り込まれている本作。でもお堅く考えないで、お家で過ごす休日にソファーに身をもたせながら観るのも良かった。イギリスの美しい文化や風景とレディーたちに心がほぐされて、ホルモンバランスが整った気がする。