ふたつの資料館

さあ観光。

ちらほら駐車場から人がやってくるが、まだ人はそんなに多くない。

 

ある有名作家に関する古風な資料館が開いていたので入ってみた。

その素敵な木造家屋に今なお住んでいるというおばあさんに、料金を支払う。おばあさんは小さいころその作家の息子に会ったことがあるそうで、「いいおじさんだった」と笑顔で話していた。

傾斜の急な階段を上って展示場である二階に向かう。階段の面は光を反射してツルツルしていた。落っこちないように気を付けて一歩一歩登っていく。

二階には所せましとガラスケースが並んでいる。ケースの中には作家に書いてもらったという掛け軸や息子への書簡をはじめ、当時使われていた食器や人形、浮世絵などが飾られていた。

ひな人形や劇用の人形が飾られているコーナーに、小さい頃の私にそっくりな日本人形が置いてあり、はっとする。

二階の床はよく軋み、体重でしなる。床板の節穴を覗くと、下階の床が見えた。床板薄い、心細い。

 

10:30過ぎにこの資料館を出たあたりから、人が急激に増え始めた。がらんとしていた朝の様子からは想像もつかなかった賑やかさにあてられ、ぎゅんっと俗世に引き戻される。

 

今度は別の資料館に入ってみた。

こちらは木の香りがする新しい建物に入っており、作家の所有図書がずらりと並んでいた。タイトルはフランス語や英語のものも多い。漱石の全集や、ニーチェなどの哲学者の作品、歴史書など、ジャンルも様々。彼はこれ全部読んだのだろうか。

私の部屋には買って読んでいない本がたくさんある。もし私が偉い作家になって死んだら、開かれた跡のない、分厚いGame of Thronesが私の記念館に飾られて、観覧者は「さすが有名作家はこんなにお洒落な洋書を読んでいたのね」と感心するだろう。

その作家の人生や作品群について知ると、読みたい本がどんどん増える。
「初恋」という作品が入っている本を買って帰りたかったのだが、資料館にはお土産店がなく、お土産用の本などは資料館入り口にあるチケット窓口で販売していた。窓口で「初恋ください」と言う勇気がなかったので、渋い顔でそこを出る。

 

通りは人でいっぱいだった。この日は土曜日。