仕事よりさかなのこ

去年の夏頃、締め切りがシビアかつトラブルの多い仕事を抱えていたため毎日残業している時期があった。

当時映画館にはまっており、仕事帰りに色々な映画館に行って、レイトショーを鑑賞するのが毎週の楽しみだった。映画自体は勿論、映画館と、映画館のロケーションも含めて楽しむのが私の仕事帰り映画のお作法。

映画館は、激コロナ禍であまり友人と会えない中、数少ないひとり娯楽のうちのひとつだったのだ。

 

そんな時期の一幕。

 

 

この日も担当案件の進捗が芳しくなく、残業を強いられていた。

ストレスと疲れでちょっとしたミスを連発し、また余計に時間がかかる。
まずい状態であることは重々承知しているのだが、残業しなければいけない現実について考えれば考える程、残業から逃げる方便ばかりがぴよぴよと生まれてくる。

そして、私は飛んだ。

 

今日は絶対「さかなのこ」を観に行くんだ!

 

映画の上映時間は21:15。

もう仕事ができる頭ではなくなっていたのでここにいてもしょうがないと思いとりあえずオフィスを飛び出してしまったが、映画のチケットを持っていない。
まだ残席があることは仕事中ちょいちょい確認していたので問題ないが、私はその映画館の会員ではない。映画館までの20分の道のりで会員登録とチケット購入の手続きをする。paypayでの支払いが可能だったのでクレカの番号を入力する手間は省け、なんとか映画チケットをゲットすることができた。

チケットを買ったはいいけれど、上映開始時刻には到底間に合わない現状、シアターに入れるのかも不明だ。ネットで調べると上映開始から15分までは入れるらしいが、それも間に合うか。平日の賑わわない歌舞伎町ネオン街をずんずん歩き、映画館の建物に入る。

映画館はまだ閑散としていた時期だったので、広い受付フロアには全然人がいない。慣れない手つきで自動発券し、上階のシアターに入った。

 

「犬王」を観に行った時と同じくらいの規模の劇場。どちらかといえばコンパクトなタイプ。こういうシアターは席の傾斜がきつく、後方に席を取ってしまうと、席に着くまでに息が上がって汗をかく。暑い。

レイトショーにも関わらず、本映画の客層は高めだった。私の前の席はおじいさんとおばあさん。後ろの席からはおばあさんの笑い声や「あぁ面白い!」といったコメントがよく聞こえてきた。
私の左隣のおじいちゃんは、映画序盤、ちょいちょい寝ていた。いびきが聞こえて、しばらくするとガクッと落ちて目を覚ます。中盤以降は映画に見入っていたのか、彼が再び入眠することはなかった。

 

あまりにも疲れていたので、観終わった直後は何も考えられず、のんさん可愛かったなあくらいしか感じられないほど頭が働いていなかった。
映画が終わり、観客がそれぞれゆっくりと席を立っていた時、シアターの後ろの方から「面白かったなア!」「よかったな!」という元気な若いにいちゃん達の声が聞こえてきた。ここでようやく我に返り、「うん面白かった!めっちゃいい映画だった!!」と思った。

それからゆっくりこの映画の素敵だったところが蘇ってくる。

 

のんさんが言葉で言い表せぬほどかわいらしく、演技が「さかなクン」として自然で素晴らしかったことは言うまでもない。

そのほかの私的MVPは、かが屋の加賀さん演じる水族館員。
さすがかが屋、リアルな先輩感の中で不意をつくコミカルさを出してくるから、つい笑ってしまう。また、さっぱり仕事に集中できないさかなクンを叱りつつもフォローする、どこか温かい先輩の姿が愛おしかった。こんな先輩いるな~仕事がうまくいかない後輩との掛け合いおもろいな~!と思わせる素敵なキャラクターだった。

あとは柳楽さん演じる同級生。
私は「ゆとりですがなにか」大好き人間なので、ガラの悪いいい奴の役といえば柳楽さん、と思っている。今回、彼女役としてぱるるが出てきて、「まりぶとゆとり!まりぶとゆとり!!」とひとり盛り上がった。

 

さかなクンは人柄の良さで良い友人に恵まれ、そのおかげもあって大好きなおさかな研究に邁進してこられたんだなと思った本作。さかなクンのユーチューブチャンネルを観ていても思うのだが、さかなクンはびっくりするような努力やアイデアを人のために実行する。それが積み重なって信用になって、人が集まってくるのだな。

「悪い人が出てこない映画」と評されている本作、これがさかなクンが見ている世界なのかもしれない。